ビオトープだより 第4号

ビオトープだより No.4

当ビオトープにおける落葉樹の意義

アドバンテストのビオトープは、「失われつつある関東平野の原風景の復元」をコンセプトとしています。最近の学術調査で、関東平野は古来より落葉樹の森が長く存続し続けている地域だということが分かってきました。
一般的には常緑樹の方が勢力的に強く、落葉樹の森も何も手を加えないと徐々に常緑樹に移り変わるとされています。実際、原生林の多くの部分は常緑樹で構成されています。一方で、関東平野の里山では、人々が落葉樹の森を手入れし、薪や木の実などの恵みを受けながら共生してきました。しかし近年では、木材の輸入や化学肥料の導入により、里山の森は利用されなくなり縮小傾向にあります。
人が森や林を手入れし維持管理する里山は、自然との共生が世界的に評価されています。2010年に開かれたCOP10(生物多様性条約締結国第10回会議)では、「SATOYAMAイニシアティブ国際パートナーシップ」が創設されるなど、里山は世界共通の言語となっています。
また、里山を構成する落葉樹の森は、冬になると落葉するため日差しが多く入ってきます。日差しは落ち葉の分解を促進して豊かな土壌を育み、日差しや土壌を求めてさまざまな動植物が集まってきます。生物多様性の観点からも、落葉樹の保全は大きな意義を持っています。
以上の理由から、アドバンテストのビオトープでは一部のエリアにて落葉樹の森の維持管理を行っています。

落葉樹の森づくり

当ビオトープでは、クヌギ、コナラ等の苗木が大きくなり、お互いの成長を遮るようになってきたため、2015年から特定のエリアで間伐を開始しました。間伐されたエリアは日射が確保され、落葉樹の成長を促します。間伐は一気に行うと環境に過剰な負荷がかかるため、一カ所あたり5年程の間隔で少しずつ行います。
伐採した原木は丸太にし、暖炉の薪材などに希望する社員に配布しています。今後は、原木を利用したキノコの栽培にも着手し、昔ながらの方法で落葉樹との共生を実践していく計画です。

間伐作業の様子。チェーンソーやショベルカーを用いて一定間隔で伐採します。

左)間伐後の落葉樹エリア。伐採した幹や枝が地面に置かれています。 右)丸太に整えた原木

左)一年前に伐採したクヌギ。幹から新たな枝が何本も伸びています。
右)左のクヌギから成長のよいものを残し間引いた様子。

ビオトープで見られる落葉樹

クヌギ

ブナ科 学名:Quercus acutissima

コナラ

ブナ科 学名:Quercus serrata

クヌギは本州以南、コナラは日本各地の雑木林で多く見られる広葉樹です。成長が早い、樹液が豊富でカブトムシ等が多く寄ってくる、紅葉後もしばらく葉が残りなかなか落葉しない、原木はシイタケ栽培に最適といった、多くの共通する特徴を持ちます。

  • クヌギ
  • コナラ

※クヌギとコナラの見分け方

樹皮の写真。クヌギ(左)は比較的樹皮が厚くシワが深め、コナラ(右)は全体的に若干白く見える、といった特徴が識別ポイントです。

葉とドングリ。左がクヌギで右がコナラ

カエデ

ムクロジ科 学名:Acer

ビオトープのカエデはクヌギやコナラと同様、2001年の開設時に移植したものです。クヌギやコナラほどの成長スピードはありませんが、十数年の年月を経てだいぶ大きくなりました。雑木林に浮かび上がる鮮やかな赤色は、秋のビオトープの中でもひときわ映えます。

  • 真っ赤に染まったカエデ
  • ビオトープで新たに発芽したカエデも成長中

ケヤキ

ニレ科 学名: Zelkova serrata

アドバンテストの雑木林の中でもひときわ背が高い樹木です。2015年は冬の訪れが遅く11月でも青々とした姿を見せていましたが、2016年は例年同様の時期に葉が色づきました。

エノキ

ニレ科 学名:Celtis sinensis

ビオトープの池に浮かぶ中島にすっくと立っています。紅葉時は鮮やかな黄色になります。
日本昆虫学会が国蝶に指定するオオムラサキはエノキの葉を食べます。しかしオオムラサキの生息地は主に山間部なので、当ビオトープには姿を現しません。

番外:シラカシ

ブナ科 学名:Quercus myrsinifolia

ビオトープの雑木林に、落葉樹に交じって生えている常緑樹です。葉の寿命は一年で、春に新たな葉が芽生えると一斉に葉を落として入れ替わります。雑木林は手を加えずにいると、シラカシなどの常緑の極相林(樹種が変化せず固定された状態にある林)に遷移すると言われています。そのため、ビオトープにおける森づくりではこのシラカシ等常緑樹が優先的に伐採されています。ただし、ビオトープ周辺地域では昔シラカシも数多く自生していたとのデータもあるので、バランスが大切となります。

紅葉の様子いろいろ

そもそも、紅葉はどのようにして起こるのでしょうか?
木の葉は元々緑色ですが、これはクロロフィル(葉緑素)によるものです。木の葉には黄色い色素のカロチノイドも含まれていますが、クロロフィルに比べ量が少なく黄色はほとんど目立ちません。秋になると気温が下がり葉の働きが弱くなると、クロロフィルは分解され、残ったカルチノイドが目立ち黄色くなります。また、秋に葉を落とすための準備をする過程で、葉の葉柄(付け根の部分)に離層と呼ばれる組織が作られます。これにより、水や養分が行き来をする葉脈が遮られ、光合成で生産された糖が葉にとどまり、赤色の色素アントシアニンが生成され葉を赤く染めます。特に昼夜の気温差が大きく適度な湿度があるとより鮮やかに紅葉すると言われています。

  • 紅葉途中の、カエデのグラデーション
  • 紅葉途中のコナラ
  • 黄色く紅葉したケヤキ
  • ニシキギの生け垣

ビオトープ初、紅葉と雪の競演

11月24日、関東甲信地方に強い寒気が流れ込み、関東の南岸を低気圧が東進したため、広い範囲で季節外れの雪が降りました。当ビオトープからほど近い埼玉県熊谷で6㎝、群馬県前橋で4㎝の積雪を観測し、11月としては66年ぶりの記録でした。
紅葉の時期の積雪はビオトープ開設以来初の出来事で、非常に珍しい光景となりました。