TCFDに基づく気候変動関連の情報開示

TCFD提言への取り組み

当社はThe Advantest Wayのもと、長期的な視点で「緩和策」と「適応策」の取り組みを継続し、重要な社会課題である気候変動に事業を通して貢献します。また、2020年4月に「気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures:TCFD)」にも賛同し、気候変動による事業リスクと機会の分析、情報開示を進めています。

ガバナンス

アドバンテストは2020年度「サステナブル経営推進ワーキンググループ(Sustainable Management Working Group。以下SMWG)」を立ち上げました。ESG全体の統括リーダー(Group CEO)およびE/S/Gそれぞれのグローバルリード(経営執行役員)の下、ビジネスユニット、ファンクショナルユニット、リージョナルユニットの責任者で構成されています。SMWGは気候変動に関連する課題の特定や評価を行い、重点施策とその目標を「ESG行動計画2021-2023」にまとめ、活動を推進しています。「ESG行動計画2021-2023」の達成状況は年2回、経営会議および取締役会に報告され、議論、評価されます。またSMWGはコーポレート・ガバナンス体制において設置されている他委員会と適時適切に情報共有を行い、全社のリスク管理を行っています。

戦略

気候変動により将来発生し得ると予測される事象に対応する戦略を検討するために、シナリオ分析を実施しました。国連気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change:IPCC)第6次評価報告書のSSP1-1.9、SSP1-2.6、SSP5-8.5、および国際エネルギー機関(International Energy Agency:IEA)のNZEシナリオ、APSシナリオを参照しています。バリューチェーンの上流下流を含む事業に与える財務影響が特に大きい2050年までに発生が予見されるリスクを特定し、1.5℃/2℃未満シナリオと4℃シナリオを検討しました。

1.5℃/2℃未満
シナリオ:
脱炭素社会の実現に向け、カーボンプライシングが導入されるなど、気候変動対策の政策・法規制が強化されると仮定しました。また、企業による脱炭素への対応が顧客や投資家の意思決定に及ぼす影響度が高くなり、対応が不十分な場合は顧客の流出やレピュテーションリスクが上昇するなど、移行リスクは高まると予測しています。
一方、脱炭素社会では、再生可能エネルギー普及率の向上や、電気自動車などの脱炭素に貢献する製品の普及に伴い、これまで以上に半導体の必要性が高まると考えられるため、ビジネス機会の拡張を予想しています。
産業革命以前に比べ1.1℃気温上昇している現在においても、既に気候変動が気象現象や自然災害に影響を及ぼしていると考えられることを踏まえ、気温上昇を1.5℃/2℃未満に抑えられた場合でも物理的リスクが発生し得ると予測していますが、4℃シナリオと比較して物理的リスクは相対的に低くなると予想しています。

4℃シナリオ:気候変動対策の政策・法規制が強化されず、脱炭素に向けた取り組みは進展しないと仮定しました。このことから、移行リスクは低いと想定しています。
気候変動の影響により、極端な気象現象や自然災害の激甚化・頻発化等、急性あるいは慢性的な物理的影響が生じ、サプライチェーンや生産ライン、物流への影響が大きくなると仮定しました。 また、物理的リスクに対応するための適応策および物理的影響が生じた後の復旧に要する額が大きくなると予想しています。

気候変動のリスクと機会

気候変動がもたらす影響に対応するため、TCFDの分類に沿って、気候変動のリスクと機会を検討しました。これらのリスクと機会について「重要度」と「影響度」による評価を行うとともに、「短期(現在から2027年まで)・中期(現在から2030年まで)」と「長期(2050年まで)」の時間軸に分類しました。

気候変動関連のリスク

気候変動関連の事業リスクについては、①1.5℃/2℃未満シナリオにおいて想定されるリスクと、②4℃シナリオにおいて想定されるリスクについて、TCFDの分類に沿って検討しました。1.5℃/2℃未満シナリオにおいては「脱炭素社会への移行に関連したリスク」と「気候変動に伴う物理的影響に関連したリスク」、4℃シナリオにおいては「気候変動に伴う物理的影響に関連したリスク」について検討しています。

1.5℃/2℃未満シナリオで想定されるリスク
カテゴリー 主なリスク 対応・戦略 時間軸
移行 政策・法規制 法規制による事業コスト増加
(炭素税・化学物質)
  • サプライチェーン全体でのGHG排出量の削減
  • 環境破壊物質を使用しない製品開発
短期
技術・市場 技術開発の遅れによる販売機会損失
(省エネ技術、新半導体へのテスト技術未確立)
  • 省エネ性能(低電力/小型化)とテスト性能向上の両立
  • 新たなテスト方式の研究とテスト装置の開発
  • 次世代の省エネ研究・開発に対応する人財づくり
短・中期
評判 ステークホルダーからの評判低下
(GHG排出量削減計画の遅延)
  • ESG経営の推進(ESG行動計画2021-2023目標の達成)
短・中期
物理 急性的・慢性的 大型台風や集中豪雨によるサプライチェーンの断絶
  • 事業継続計画による対応
短・中・長期
4℃シナリオで想定されるリスク
カテゴリー 主なリスク 対応・戦略 時間軸
物理 急性的・慢性的 大型台風や集中豪雨によるサプライチェーンの断絶
  • 事業継続計画による対応
短・中・長期

気候変動関連の機会

2030年までの半導体長期予測に基づき今後も市場拡大すると予想される中、半導体テスタ市場の拡大も予想されます。

半導体市場の成長は気候変動だけでなく各国の経済成長・GDPの伸び等さまざまな要因によるものであると考えられますが、アドバンテストは、気候変動に起因した直接的な事業機会を以下のように整理しました。

気候変動対策が強化された脱炭素社会においては、半導体が大きく貢献します。デジタル・トランスフォーメーションによる半導体需要のすそ野の広がりなど、今後半導体生産量は増加の一途をたどることが想定できます。並行して半導体の技術進化・複雑化により、半導体試験の質と量が高まります。1チップ当たりのテスト内容の強化と半導体の物理的な増加、この2つの要素の掛け算で半導体テストの需要が増加することが見込まれ、当社は脱炭素社会を気候変動の機会と認識しました。こうした技術進化のための研究開発費や次世代に対応する人財づくりなど、先行的な投資も行い、アドバンテストは、半導体テストの事業と新たな半導体技術に対応する製品開発を通じて未来の脱炭素社会の実現に貢献していきます。

気候変動関連の機会
カテゴリー 主な機会 対応・戦略 時間軸
製品およびサービス・市場 エネルギー効率が重要な基幹半導体における、市場成長を上回るテスト需要の伸び
  • 省エネ性能(低電力/小型化)とテスト性能向上の両立
  • 新たなテスト方式の研究とテスト装置の開発
短・中期
製品およびサービス・市場 EVなどの最終需要とするパワー半導体がもたらす新規のテスト需要
  • 新たなテスト方式の研究とテスト装置の開発
短・中期
製品およびサービス・市場 グリーン製品の提供による当社の売上増
  • ESG経営の推進(ESG行動計画2021-2023目標の達成)
短・中期

リスク管理

アドバンテストでは、事業経営の阻害要因となるものをリスクとして捉え、全社的なリスクマネジメントの体制を整備しています。気候変動が経営に及ぼすリスクもこの仕組みの中でマネジメントされます。SMWGのサポートにより、気候変動に関連する緊急性のあるリスクと将来起こりうるリスクの分析・評価を行い、全社的なリスクマネジメントの体制の中で、そのリスクを回避、軽減する対策を決定し、事業継続のための対応をしています。SMWGでは適時に意思決定をして特に重要と認識されたリスクがある場合には、関連部門を集約したタスクフォースを立ち上げ、迅速に対応します。

指標と目標

気候変動関連のリスクおよび機会への施策に対する指標と目標は「ESG行動計画2021-2023」において管理しています。「ESG行動計画2021-2023」の達成状況は年2回、経営会議および取締役会に報告され、議論、評価されます。その結果を踏まえ、SMWGはESG行動計画2021-2023の指標や目標を見直し、更新します。

アドバンテストは、中期目標として、温室効果ガス排出量をScope 1+2において2030年度に2018年度比60%削減、Scope 3において2030年度に2018年度比15%削減することを掲げており、また、長期目標として、温室効果ガス排出量をScope 1+2において2050年度にゼロとすることを掲げています。これらの目標はSBTi認定を取得し、当社の温室効果ガス削減目標が科学的根拠に基づいたものであると認められました。なお、Scope 1+2については再生可能エネルギーの導入などを通じ、順調に排出量削減を進めているものの、Scope 3については、目標設定当時の想定よりも大幅に売上が増加したことにより、2022年度時点では目標に対して進捗が遅れています。排出削減目標の達成に向けて、よりCO2排出量の少ない製品開発や、バリューチェーンにおける排出量削減のための協働推進などの取組を一層強化していきます。