フジバカマとビオトープ
当ビオトープは、現在群馬県で4カ所しか確認されていないフジバカマ自生地の1つです。ビオトープの北100mほどの所を流れる谷田川の自生地の種が飛来、定着したものと考えられています。当初は自然発生種のみでしたが、個体数が少なくこのままでは近交弱勢により絶滅してしまう可能性がある為、一部地域の自生地よりさし木苗や実生苗を移植しました。
当ビオトープでは日当たりの確保をはじめ、フジバカマの生育に適した環境整備に努めています。その中でも最も細心の注意を払うのは草刈りです。フジバカマは他の草を頼って成長し、時にはセイダカアワダチソウなどの駆除すべき外来種に寄生することもあります。その様な時は機械で草刈りせず、炎天下の中でも一つ一つ手で草取りをします。
絶滅の危機にある種は生育が安定せず、フジバカマも時には個体数を減らすこともありました。しかし自生から約十年を経て、最近は一定の場所で一定の個体数を確認できるようになりました。
フジバカマ成長の記録
3月頃に株元から小さな赤い芽が出てきます。4月に入ると青々とした芽が伸びてきます。
5月。一気に成長を開始します。場所によってはハルジオンなど他の植物と混ざってしまい識別がむずかしいこともあります。フジバカマの特徴は三枚に裂けた葉です。ただし自然種の中にはこの特徴がはっきりと出ないものもあるそうです。
フジバカマの生育環境を把握するため、気温や地温をはじめさまざまなデータを収集しています。左の写真は腐葉土層の厚さ測定の様子。右はカラスに壊された気温計の交換。現在はカラス対策の棘を気温計につけています。
7月。気温の上昇とともに背丈もずいぶん大きくなります。蕾もつき始めます。
8月下旬になると花が咲き始めます。場所によって勢いよく咲く株もあれば、今一つのものあり、その場合は日当たりの良い場所への移植も検討します。9月に入ると満開です。
10月には開花もほぼ終わり、種が実ります。冬に入ると葉や茎は一旦枯れますが、フジバカマは多年草なので、春になると地中を這う根茎から再び芽を出します。
秋の七草とビオトープ
秋の七草は、ハギ、オバナ(ススキ)、クズ、カワラナデシコ、オミナエシ、フジバカマ、キキョウの七種を指します。春の七草が「七草がゆ」に代表されるように食して楽しむのに対し、秋の七草は鑑賞して楽しむものとされています。
アドバンテストのビオトープでは、ハギ、オバナ、クズ、フジバカマの4種を見ることができます。カワラナデシコは日当たりの良い河原や草地を好みますが、ビオトープの草地には自生していません。オミナエシとキキョウはビオトープの立地する群馬県の植物レッドリストで、絶滅危惧Ⅱ類に指定されています。
- ハギ
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マメ科 学名 Lespedeza
開花時期 8~10月
日本各地で見ることができる植物です。一般にマメ科の植物は、痩せた土地でも良く育つ特性があります。茎は木のように硬くなりますが、年々太くなって伸びることはなく、毎年根本から新しい芽が出ます。また、同じハギ属でもネコハギ等は茎が硬くならず草に分類されています。
- オバナ(ススキ)
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イネ科 学名 Miscanthus sinensis
開花時期 9~10月
オバナ(尾花)、ススキ(薄)、カヤ(萱)はいずれも同じ種を指します。ヨシ(芦)やオギとの区別が難しいですが、ススキは株になってまとまって生えるのに対し、ヨシやオギは一本ずつ分かれて生えます。日当たりのよい場所に広く自生し、日本各地で見ることができます。一部の地域では、中秋の名月にススキとハギをお供えする習慣があります。
- クズ
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マメ科 学名 Pueraria lobate
開花時期 7~9月
葛餅や葛切り、葛湯、葛根など、日本では古くから食用や薬用として親しまれてきました。蔓を伸ばして根を下ろし、蔓を刈っても根茎から蔓が再生します。その繁茂力の高さや拡散の早さから、北米では有害植物ならびに侵略的外来種として駆除活動が行われ、当ビオトープでも数が多くなり過ぎた時は刈り取っています。
秋の草花ピックアップ
七草以外の、ビオトープと縁深い秋ならではの草花についてご紹介します。季節柄、マメ科とキク科の植物が多くなっています。
- アキノノゲシ
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キク科 学名 Lactuca indica var. indica
開花時期 8~11月
当ビオトープではその姿を確認することが少ない植物です。要注意外来種であるセイダカアワダチソウと同じような場所に生育することが多く、誤って一緒に駆除してしまっている可能性があります。頭花は淡黄色が多く、稀に白色や淡紫色も見られます。花は昼に開き、夕方にしぼみます。
- イヌトウバナ
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シソ科 学名 Clinopodium micranthus
開花時期 8~10月
名前にある「イヌ」は、似て非なるものを意味する「イナ」が転訛したもので、犬とは関係ないそうです。トウバナが初夏に咲くのに対し、イヌトウバナは夏から秋にかけて咲きます。強い日差しの当たらないやや湿った所を好むとのことで、当ビオトープでは当初日当たりのよい草原に出現しましたが、その後木陰に移植し成長を促しています。
- ノコンギク
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キク科 学名 Aster ageratoides var. ovatus
開花時期 8~11月
街中でもよく目にする「野菊」の代表的な一種です。名前は「野紺菊」ですが、写真のように白に近い色の花もあります。人の手がはいった環境によく自生すると言われ、当ビオトープでも草刈りを行った後の園路沿いなどで多く見られます。
- ヒガンバナ
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ヒガンバナ科 学名 Lycoris radiata
開花時期 9月
夏から秋にかけて、葉の無い花茎が地表から伸びて花が咲きます。冬になるとロゼット状に葉をつけますが、春には枯れ、花と葉が同時に出ることはありません。当ビオトープの自生株は池を囲む植木と同じ位置に生えており、造成時に植木の根鉢に球根が入っていたものと考えられています。
- メドハギ
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マメ科 学名 Lespedeza cuneate
開花時期 9~10月
春から夏にかけては上へ真っ直ぐ成長していきますが、秋になると頭を垂れます。痩せた土地でも短期間で成長し、根が土深く入ることから、道路の切通しなど傾斜地の砂防・緑化に用いられています。
- ヤブツルアズキ
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マメ科 学名 Vigna angularis var. nipponensis
開花時期 8~10月
ヤブツルアズキには蔓がありますが、畑で栽培されているアズキにはありません。サヤも中の豆も、栽培アズキの半分ほどの大きさです。ヤブツルアズキの豆も食べることができるそうですが、自然種は熟すと莢がはじけ中の豆が地面に四散してしまうので収穫するのは一苦労です。
- ヨモギ
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キク科 学名 Artemisia princeps
開花時期 9~12月
春の新芽はおひたしや天ぷら、草餅などでよく親しまれています。日本各地で見られ、またヒガンバナなどと同様、他の物質を寄せ付けないアレロパシー物質を出すことでも知られています。
- ワレモコウ
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バラ科 学名 Sanguisorba officinalis
開花時期 8~10月
秋に茎を伸ばし、その先にバラ色の花穂がつき、穂の先端から下へと順々に咲きます。草原など開けたした所を好み、ビオトープでも日当たりの良い場所に自生しています。
小学生を招待し自然観察授業を開催
7月14日、群馬県明和町立明和東小学校の2年生児童33名をビオトープに招待し、自然観察会を開催しました。 最初に挑戦したアメリカザリガニ釣りは、6月の明和西小学校の時と同様一匹も釣れませんでしたが、児童たちは網でスジエビを何匹も捕まえるなど、思い思いに楽しんでいました。釣りの後はビオトープの森を散策し、最後に野原で昆虫を採集しました。蝶やカマキリなどを捕まえるたびに、児童たちは大きな歓声をあげていました。
企業の環境担当者見学会を開催
10月7日、一般社団法人 企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB)を招待し、ビオトープ現地見学会を開催しました。
JBIBは、会員企業約50社が集まり、企業における生物多様性の取り組みを推進するためのガイドラインやツールを開発するとともに、情報共有や勉強会、情報発信などの活動を行っています。今回、地域の生態系と調和したさまざまな動植物が生息する当ビオトープにご興味いただき、見学会開催のはこびとなりました。
当日は16名の方に参加いただき、座学と現地見学を行いました。参加者各位からは、生態系に配慮した日頃の管理体制や、ビオトープ完成当初から継続しているモニタリングなどに多くの関心が寄せられました。見学会の最後に実施したアンケートでは、全ての方から「参考になった」「大変参考になった」とご回答いただきました。