ビオトープだより 第6号

ビオトープだより 第6号 蝶 「ビオトープだより」第6号は、夏のビオトープで大きな存在感を示す昆虫たちの中から、蝶にスポットを当てます。 2017年9月 ミソハギに飛来するスジクロシロチョウ

蝶は生物多様性のバロメーター

蝶の幼虫の多くは特定の植物しか食べません(「狭食性」と言います)。蝶のメスは、産卵時に幼虫が食べる植物を識別し産卵場所を選びます。多くの種類の蝶が飛来するということは、それだけ多くの種類の植物がいることを意味します。幼虫がさまざまな植物を食べる「広食性」の蝶もいますが、そうした蝶は得てして害虫だったり特定外来種だったりします。

成虫は、花の蜜や樹液などを好んで食べます。ビオトープにはクヌギやコナラなど、樹液を豊富に出す樹木が多く自生していますが、樹齢を重ねるにつれ樹液の量は減少する傾向にあります。定量的観察ではなくあくまで印象に過ぎませんが、ビオトープの蝶の数もわずかながら減りつつあり、樹液の量が影響しているのではないかと推定しています。

キアゲハの幼虫

ビオトープに集う蝶たち(五十音順)

アオスジアゲハ
アゲハチョウ科 学名: Graphium sarpedon
幼虫の食樹:クスノキ科の植物
アオスジアゲハの食樹であるクスノキは、元々南方に自生する植物です。落葉しない、虫が付きづらく管理しやすいといった理由から、街路樹などへの導入が進み、その結果アオスジアゲハも北上してきました。ご多分にもれず当ビオトープのある事業所の外周も、開設時にクスノキを植えて今に至っています。
アカボシゴマダラ
タテハチョウ科 学名:Hestina assimilis
準絶滅危惧種(奄美亜種、環境省レッドリスト)
要注意外来生物(奄美亜種を除く、外来生物法)
幼虫の食樹:ニレ科の植物(エノキなど)
日本固有のアカボシゴマダラは、奄美諸島にのみ分布し、環境省レッドリストの準絶滅危惧種に指定されています。一方、20年ほど前から当ビオトープを含む関東各地でも見かけるようになった亜種は、中国大陸産のものと特徴が似ており、何らかの人為的理由でやって来たと推測されています。分布は拡大しており、ゴマダラチョウなどの在来種との競合が危惧されています。
アカボシゴマダラ
ゴマダラチョウ
キタキチョウ
シロチョウ科 学名:Eurema mandarina
幼虫の食草:マメ科の植物(メドハギなど)
以前はキチョウと呼ばれていた蝶です。2005 年に、本州から南西諸島にかけて生息する「キタキチョウ」と、南西諸島およびアジア・オセアニア地域に生息する「キチョウ(ミナミキチョウ)」に分類されました。両者の違いは、羽表面の紫外線反射やDNA 分析などで識別できるもので、外見上は全く区別できないそうです。
ギンイチモンジセセリ
セセリチョウ科 学名:Leptalina unicolor
準絶滅危惧種(環境省レッドリスト)
幼虫の食草:イネ科の植物(ススキなど)
羽の真ん中を真一文字に貫く銀色の帯が名前の由来です。春に出現する個体は銀色が鮮やかですが、夏に出現する個体はほぼ黄色になり目立ちません。環境省レッドリストで準絶滅危惧種に指定され、当ビオトープでもここ4~5年ほどは姿を確認できていません。
コムラサキ
タテハチョウ科 学名:Apatura metis
幼虫時の食樹:ヤナギ科の植物
オスの羽は、光の当たる角度によって鮮やかな紫色が浮かび上がります。当ビオトープでは数年前は確認頻度が高かったのですが、最近は樹液の少なくなった関係か確認数が減っています。
ツマグロヒョウモン
タテハチョウ科 学名:Argyreus hyperbius
幼虫の食草:スミレ科の植物
羽の模様はオスとメスで大きく異なり、メスは鳥類が敬遠する有毒の蝶・カバマダラによく似ているそうです。しかし、カバマダラの分布は南西諸島が北限で、本州(関東以西に分布)におけるツマグロヒョウモンの擬態の効果は不明です。
メス
オス
ナミアゲハ
アゲハチョウ科 学名:Papilio Xuthus
幼虫の食樹:ミカン類、サンショウ類の植物
アゲハチョウと総称される蝶の中で、日本ではキアゲハと並んで最も頻繁に姿を見る蝶です。両者はよく似ていますが、ナミアゲハは前羽の前側が筋状になっています。また、幼虫時の食草も、キアゲハはパセリやニンジン、ナミアゲハはミカン類やサンショウ類と異なります。
ヒオドシチョウ
タテハチョウ科 学名:Nymphalis xanthomelas
幼虫時の食樹:ニレ科、ヤナギ科の植物
他の蝶の多くが春から秋にかけて長い期間観察できるのに対し、ヒオドシチョウは平地では6~7月と出現期間が極めて限られ、その後は夏眠に入ってしまいます。酷暑で知られる群馬県館林市にほど近い当ビオトープでの夏眠には、さぞかし苦労していることでしょう。
ベニシジミ
シジミチョウ科 学名:Lycaena phlaeas
幼虫時の食草:タデ科の植物(スイバ、ギシギシなど)
以前は30円切手の図柄になっていた蝶です。当ビオトープでは、草地など開けた空間によく姿を現します。地面すれすれを飛び、長時間飛ぶことなくすぐに止まります。
ムラサキシジミ
シジミチョウ科 学名: Narathura japonica
幼虫時の食樹:ブナ科の植物(アラカシ、コナラなど)
成虫で越冬する蝶です。当ビオトープには枯れ葉が積み重なった合間など、越冬に適した空間が豊富にありますが、まだ冬に姿を見たことはありません。羽の表と裏では色や模様が大きく異なります。
ムラサキシジミの羽:表面
同:裏面
モンキチョウ
シロチョウ科 学名:Colias erate
幼虫時の食草:マメ科の植物(シロツメグサ、クサフジなど)
マメ科の植物は繁殖力が旺盛なものが多く、人の手の介在をできるだけ控えているビオトープでは、おのずとモンキチョウに適した環境ができあがります。羽の色は基本的にはオスが鮮やかな黄色、メスは淡い黄色(写真)ですが、まれに鮮やかな黄色のメスもいるそうです。
モンシロチョウ
シロチョウ科 学名:Pieris rapae
幼虫時の食草:アブラナ科の植物など
アドバンテストでは、社員食堂の残飯から作った肥料を活用して、ビオトープに隣接する空き地で野菜を栽培しています。野菜は食堂の食材として活用するとともに、社員にも販売しています。一方で、モンシロチョウの幼虫はキャベツや大根といった野菜の葉が大好物です。ビオトープを管理する立場としては複雑な気持ちになりますが、これも豊かな自然の証です。
  • その他のビオトープの蝶たち
イチモンジチョウ
タテハチョウ科 学名:Limenitis camilla
幼虫の食草:スイカズラ科の植物
キタテハ
タテハチョウ科 学名:Polygonia c-aureum
幼虫の食樹:主にクワ科の植物(カナムグラなど)
コミスジ
タテハチョウ科 学名:Neptis Sappho
幼虫の食樹:ニレ科の植物(ハルニレなど)
サトキマダラヒカゲ
タテハチョウ科 学名:Neope goschkevitschii
幼虫の食草:イネ科のササ類(メダケなど)
ジャコウアゲハ
アゲハチョウ科 学名:Atrophaneura alcinous
幼虫の食草:ウマノスズクサ科の植物
ヒメジャノメ
タテハチョウ科 学名:Mycalesis gotama
幼虫時の食草:イネ科の植物(アズマネザサなど)
ヒメウラナミジャノメ
タテハチョウ科 学名:Ypthima argus
幼虫時の食草:イネ科、カヤツリグサ科の植物
ヤマトシジミ
シジミチョウ科 学名:Pseudozizeeria maha
幼虫時の食草:カタバミ科の植物
ルリタテハ
タテハチョウ科 学名:Kaniska canace
幼虫時の食草:ユリ科の植物(サルトリイバラなど)

参考文献:「ヤマケイポケットガイト9 チョウ・ガ」松本克臣著、1999年

小学生を招待し自然観察授業を開催

7月10日、群馬県明和町立明和東小学校の2年生児童27名をビオトープに招待し、今年で7年目となる自然観察会を開催しました。
特定外来種の駆除も兼ねたアメリカザリガニ釣りは、外来種対策の効果と言うべきか、今年も釣果ゼロに終わりました。釣りの後は野原で昆虫採集を行い、児童たちはトンボやバッタなどを捕まえるたびに大きな歓声をあげていました。捕まえた昆虫は観察したり写真を撮るなど、生活科の授業に活用されたとのことです。

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