ビオトープだより 第9号

ビオトープだより 第9号 トンボ ビオトープだより第9号は、夏から秋にかけてビオトープの空を飛びまわるトンボたちをしょうかいします。 2018年9月 ヤゴ(トンボの幼虫)のぬけがら。

トンボは生物多様性のものさし

トンボは、ヤゴの時期は水中で、成虫は陸の上で過ごします。産卵場所は、水面、水生植物、どろの中、草地など種によって幅広く、生育場所も平地から丘陵地(きゅうりょうち)そして山地に至る、川、池、沼(ぬま)、湿地(しっち)水田、海岸などさまざまです。ヤゴの期間も、1カ月(ウスバキトンボなど)から数年(オニヤンマなど)まで、種によって大きな差があります。

また、幼虫も成虫も肉食で、食べものとなる虫や、その虫が必要とする草木などさまざまな生き物が成育する場所がトンボには必要です。つまり、トンボの個体や種の数が多いほど、その場所にはさまざまな種類の動植物が生息していることになります。

ビオトープのトンボたち(12種、五十音順)

トンボは他の虫とことなり、成虫になるとオスの体色が大きく変化する種が多く存在します。なぜ体色を変化させるのか、くわしい原因は分かってないそうですが、トンボの種を見分けるポイントになります。とはいえ、トンボの専門家でない私たちには難しいことも多く、このビオトープにはここでしょうかいした以外にも種が特定できていないトンボがいます。

アキアカネ
トンボ科 Libellulidae
生息環境(せいそくかんきょう):水田、池、沼、湿地など
いわゆる「赤とんぼ」です。夏の間は山地などすずしいところで過ごし、秋になると平地に下ってきます。このビオトープでも、6月頃の羽化の時期と、秋には姿を見かけますが、真夏はあまり目にしません。
アジアイトトンボ
イトトンボ科 Coenagrionidae
生息環境:水生植物のある池、沼、湿地、流れがよどんでいる川など
他のトンボに比べて胴体(どうたい)が細いイトトンボは、種類が非常に多く、同定するのに苦労します。アジアイトトンボのオスはしっぽの方が明るい水色です。
ウスバキトンボ
トンボ科
生息場所:草たけの低い開放的な湿地
熱帯地域から、北半球なら北へ、南半球なら南へ、代を重ねながら移動する種として有名です。日本で見るウスバキトンボは、日本にずっと住んでいるのではなく旅の途中(とちゅう)だそうです。寒い土地にたどり着いたウスバキトンボは冬にたえられず子孫を残せませんが、それでも熱帯地域から新たなウスバキトンボがやってくるという、不思議な種です。
ウチワヤンマ
サナエトンボ科 Gomphidae
生息環境:平地から丘陵地の、日当たりのよい池や沼
しっぽの方にとがった部分があり、呼吸のたびに動くのがウチワヤンマの特ちょうです。
ギンヤンマ
ヤンマ科 Aeshinidae
生息環境:平地から丘陵地の、日当たりのよい池、沼、流れがよどんでいる川、人工池など
飛ぶスピードが速く、かつ長い間飛び続けることができます。他のトンボと比べて高い所を飛ぶことが多いので、写真をとるのは結構苦労します。
コオニヤンマ
サナエトンボ科
生息環境:川の中流から下流域で、近くに林のある場所
体の模様はオニヤンマとよく似ていますが、体長はオニヤンマほど大きくありません。
コシアキトンボ
トンボ科
生息環境:平地から丘陵地の、木々に囲まれた池、沼、流れがよどんでいる川
メスは腰(こし)周りが黄色です。オスも最初は黄色ですが、成熟するとともに白くなります。
シオカラトンボ
トンボ科
生息環境:池、沼、湿地、水田、流れがよどんでいる川など
成熟したオスは、胸から腹に塩のような白い粉をふきます。当ビオトープでは、初夏の時期に最も多く目にするトンボです。
ショウジョウトンボ
トンボ科
生息環境:平地から丘陵地の、日当たりの良い池、沼、湿地など
ショウジョウは漢字で「猩猩」と書き、赤い顔とかみの毛を持つ想像上の動物です。成熟したオスは、アキアカネやナツアカネなどの、「赤とんぼ」よりもあざやかな赤色になりますが、メスや若いオスは地味なオレンジ色です。
チョウトンボ
トンボ科
生息環境:平地から丘陵地の、水生植物が茂る池、沼、流れがよどんでいる川
あざやかな羽がよく目立ちます。このビオトープのある群馬県では、準絶滅危惧種(じゅんぜつめつきぐしゅ)に指定されています。ここでも数年に一度しか見ることができません。
ナツアカネ
トンボ科
生息環境:池、沼、湿地、水田など
アキアカネと共に「赤とんぼ」と呼ばれている種です。名前のとおり、夏でも平地で見ることができます。
ハグロトンボ
カワトンボ科 Calopterygidae
生息環境:平地から丘陵地の、水生植物が茂っている川や用水路。
全身まっ黒。メスよりオスの方が黒さが際立っています。羽化してしばらくはうす暗い森の中などに生息し、成熟すると水辺にもどってくるそうです。木立(こだち)と池がとなり合っているこのビオトープは、ハグロトンボに適した場所と言えそうです。

参考資料:尾園 暁、川島 逸郎、二橋 亮(2012年)「日本のトンボ」 文一総合出版

フジバカマ最新情報

ビオトープを代表する植物であるフジバカマの花が今年もさきました。

フジバカマは群馬県には4カ所しか自生地がありません。先日 群馬県植物レッドリストの一部見直し(PDF 220KB) が行われ、残念ながらフジバカマは絶滅危惧(ぜつめつきぐ)IB類から絶滅危惧IA類へと、絶滅「危惧度の最も高いランクになってしまいました。

このビオトープでは、自生し始めた数年前からフジバカマの生育に適した環境の整備に努めています。当初は日当たりの良い土手に植えつけていましたが、実際はヨシのしげみの中から、ヨシを頼って伸びてきました。フジバカマは自立できず、頼っている草を取りのぞくと倒れてしまいます。倒れる理由は「日当たりを求めて」という説が有力ですが、「倒れることで種を遠くに飛ばす」という説もあります。

フジバカマが育つ環境にはまだ分からない事が多く、私たちの試行錯誤(しこうさくご)はしばらく続きそうです。

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